医学会誌42-補遺号
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27基-10:酸素による心筋細胞増殖停止機構の解析-タイチン断片に着目して- 研究代表者:橋本 謙(生理学1) 哺乳類心筋細胞は胎生期には活発に分裂し、原始心臓を形成するが、出生後1週間以内に増殖サイクルは停止し、以降は分裂を止め、心臓の成長に応じた肥大へスイッチする。我々はこの分裂⇒肥大のスイッチが出生時の肺呼吸開始による酸素分圧の上昇(動脈血レベル20→100mmHg)という環境因子によって起こることを明らかにした(論文投稿中)。しかし、この酸素変化を心筋細胞内で細胞周期の永続的停止へと導く分子メカニズムは不明である。我々は前年度のプロジェクト研究において、筋サルコメアに存在し、筋の受動的伸展性、即ち心臓の伸び易さを規定する巨大弾性タンパクであるタイチン(コネクチン)に着目し、出生時に起こるそのisoform変化(N2BA型;3.7 MDa→N2B型;3.0MDa)が酸素上昇によって起こることを明らかにした。今年度は、タイチンのマイナーisoformの一つであるNovexIII(650kDa)に着目し、このisoformが驚くべくことに心筋細胞の核内に存在することを明らかにした。NovexIIIは分裂が活発な胎児期には核に局在するものが多く、出生後の新生児心筋細胞では核ではなく細胞質に局在する細胞の割合が増加していた。同様の核→細胞質への移行は胎児期心筋細胞への酸素曝露によっても観察されたことから、出生時肺呼吸開始による酸素上昇によってNovexIIIが核から細胞質に移行することが心筋分裂停止を誘発している可能性が示唆された。さらに、siRNAによりNovexIIIを抑制すると心筋分裂能、および細胞周期関連の遺伝子の発現が共に抑制されることを見出した。今後は、NovexIIIを標的として遺伝子改変マウスを用いて個体レベルでの解析を進めて行く予定である。27基-41:成体マウスの心筋細胞に備わるメカノフィードバック機構の解析研究代表者:氏原 嘉洋(生理学1) 心筋細胞は、律動的な収縮・弛緩を行いながら、時々刻々と変化する血圧などの血行力学負荷に対して自身の構造や機能を再構築して、心臓のポンプ機能を最適化している。このようなダイナミックな適応を実現するためには、心筋細胞は自身の力学環境を常にモニターする必要があると考えられるが、そのメカニズムはよくわかっていなかった。我々は、心筋細胞の力学応答のキー分子として、力学刺激感受性イオンチャネルに注目して研究を進めてきた。これまでに、薬物投与依存的かつ心筋細胞特異的にこの分子をノックアウト可能な遺伝子改変マウスを開発し、この分子が成体マウスの心機能の維持に必須であることを示した。 本研究では、心筋細胞の力学感受性イオンチャネルはどのように力学環境の変化を生化学的シグナルに変換し、心臓の恒常性を維持するのかを調べた。その結果、力学感受性イオンチャネルをノックアウトした成体マウス心臓では、IGF-1/PI3K/Aktシグナル経路が減弱していることがわかった。さらに、心筋細胞は、伸展刺激依存的に力学感受性イオンチャネルを介したCa2+流入をトリガーとしてIGF-1を分泌する機構を有することを明らかにした。以上により、常時力学負荷に曝される心臓において、力学刺激感受性イオンチャネルがIGF-1/IGF-1受容体/PI3K/Aktシグナル経路を活性化することで、恒常性を維持する仕組みがあることが示唆された。― 循環・呼吸 ―S33

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