医学会誌42-補遺号
30/102

27基-31: スフィンゴ糖脂質セラミド骨格の構造多様性が担う生物機能の解明:膀胱移行上皮およびミエリン鞘におけるフィトセラミドの新規機能研究代表者:松田 純子(病態代謝学) スフィンゴ糖脂質(GSL)は親水性の糖鎖部分と疎水性のセラミド骨格からなる生体膜の構成脂質である。セラミド骨格はスフィンゴシン塩基と脂肪酸から構成され、それぞれに構造多様性がある。小腸、腎臓にはスフィンゴシン塩基のC4位に水酸基を持つフィトセラミド構造が豊富に存在するが、未だその機能は不明である。我々はフィトセラミドの合成に関わる酵素:Dihydroceramide:sphinganine C4-hydroxylase (DES2)のノックアウトマウス(Des2-KO)を作製し、フィトセラミド構造を持つGSLが欠損していること、出生早期から体重増加不良を呈して2週間前後で死亡すること、小腸上皮細胞および近位尿細管上皮細胞に組織病理学的変化を認めることを明らかにしてきた。本研究では、これまでフィトセラミド構造の存在が知られていなかった膀胱と脳神経系の表現型解析を行った。Des2-KOの膀胱移行上皮には明らかな組織病理学的変化を認め、膀胱組織由来脂質のLC-MS分析で、野生型マウスの膀胱にはフィトセラミド構造を持つGSLが豊富に存在するのに対し、Des2-KOではそれらが欠損しており、フィトセラミド構造が膀胱移行上皮細胞の機能に必須であることが明らかになった。脳神経系においては、脳海馬体歯状回最内層の神経細胞死と、小脳白質の髄鞘形成不全および軸索変性を認めた。これらの結果はフィトセラミド構造が小腸上皮細胞や近位尿細管上皮細胞に加え、膀胱移行上皮細胞や神経上皮細胞、ミエリン形成細胞においても必須であることを示している。今後はその分子メカニズムの解析を、膜の極性形成や物質輸送に焦点を当てて進めていく予定である。27基-34: レチノイド代謝に対するプロサポシン過剰発現の影響研究代表者:小野 公嗣(解剖学) プロサポシン(PSAP)はリソソームに運ばれて、スフィンゴ脂質の加水分解に必須の糖タンパク質-サポシン(SAPs)A、B、C、D-を生成すると同時に、細胞外に分泌され、栄養因子などとして機能しているとされている。2012年にセマフォリン4A(Sema4A)が網膜色素上皮細胞 (RPE) からのPSAPの分泌に関わり、その遺伝的欠損はヒトの網膜色素変性症を引き起こすことが報告された。我々は、PSAP欠損マウス(PSAP-KO)および PSAP過剰発現マウス(PSAP-Tg)の網膜の表現型解析を行い、PSAP-KO網膜には視細胞の変性脱落を認めないのに対し、PSAP-Tg網膜では、出生時には正常であった視細胞が3週齢頃から脱落し始め、5週齢までには完全に脱落することを明らかにした。PSAP-Tg網膜における視細胞変性の分子メカニズムを解明するために、PSAP-Tg網膜のオートファジーフラックス解析を行ったところ、病初期である2週齢のPSAP-Tg網膜において、LC3-Ⅱ/Ⅰ比の上昇とp62の発現低下が認められ、オートファジーの活性化が示唆された。LC3の発現を免疫組織化学的に解析した結果、野生型マウスの網膜ではRPEにのみ発現を認めたのに対し、PSAP-Tg網膜では視細胞の細胞体からなる外顆粒層においてLC3の染色強度の上昇が顕著であった。以上の結果より、PSAPの発現量の上昇が網膜視細胞におけるオートファジー異常を介して視細胞死を惹起する可能性が示唆された。視細胞内でのプロサポシン過剰が、レチノイド代謝異常を引き起こし、視細胞のオートファジーを活性化している可能性を想定し、現在検討中である。S26川 崎 医 学 会 誌

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 30

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です