医学会誌42-補遺号
29/102

27基-73:高次脳中枢による嗅覚系神経回路の遠心性調節に関する三次元構造解析研究代表者:樋田 一徳(解剖学) 嗅球神経回路は、匂い入力、介在ニューロンなどの調節を受けていることが知られている。この他に他の高次脳中枢からの遠心性ニューロン投射による調節が示唆されるが、その詳細は不明で、その詳細を解明することが本研究の目的である。 嗅球へは、縫線核からのセロトニンニューロン、対角帯水平部からのアセチルコリンニューロン、青斑核からのノルアドレナリンニューロンが投射する。我々はまずセロトニンニューロンの解析結果を発表した(Suzuki 2015)。次にウイルスと遺伝子改変マウス(ChAT-Cre mouse)を用い、起始核(対角帯水平部)から投射する単一アセチルコロンニューロン像を初めて明らかにした(Hamamoto 2016 学会発表済、論文投稿中)。さらに投射先の嗅球では、主に糸球体層で複数の糸球体内部・周辺を横断している像が確認され、セロトニンニューロンとは線維分布が異なっていた。さらにノルアドレナリンニューロンは嗅球内では、糸球体内部には分布せず、他の2種のニューロン群とは異なる分枝と線維分布を示した(Horie 2016 学会発表済、論文準備中)。 以上の結果から、遠心性投射する3種のニューロン群は異なる投射分布様式を示し、神経回路に対し異なる影響・効果を示すことが形態学的に示された。今後は更に解析を進め、高次脳中枢からの遠心性ニューロン投射の詳細と存在意義を明らかにしたいと考えている。27ス-3:高次嗅覚系脳中枢における情報統合に関わる構造基盤の解明研究代表者:中村 悠(解剖学) 嗅覚情報は初めに嗅球で処理された後、梨状皮質へ伝達される。梨状皮質からの大まかな投射様式については、ラットで放射性物質を用いた先行研究(Luskin and Price, 1983)が報告されている。梨状皮質の標的部位のうち、島、嗅周、嗅内皮質では嗅覚情報が他の感覚情報と統合されると考えられているが、情報が統合されていく仕組みを解明するにはより詳細な解剖学的所見が必要である。そこで本研究では、脳内の微小領域に限局注入することが可能な、高感度順行性トレーサーであるPhaseolus vulgaris-leucoagglutinin(PHA-L)を用いた。PHA-Lをマウス梨状皮質内に微量注入した結果、標識された軸索線維は、Luskinと Priceが報告していない部位にも分布していた。すなわち、梨状皮質前方部由来の軸索線維が側坐核、扁桃体の基底外側核、基底内側核、内側核でも確認され、梨状皮質後方部ニューロンの軸索が床核と扁桃体内側核において分布していた。今回の結果から、PHA-Lは放射性物質による軸索標識に比べて十分感度が高く、梨状皮質からの投射をより詳細に再検討できると期待される。今後はPHA-L標識の所見を増やし、梨状皮質内諸領域からの投射様式を同一基準で比較していく。また、逆行性トレーサーを用いて起始細胞の分布についても解析を進める予定である。S25

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 29

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です