医学会誌 第41巻 補遺号
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26大-1: 脳形成時に神経前駆細胞がグリア細胞へ分化するメカニズムの解析-新生児脳障害の病態改善に向けて-研究代表者:下屋 浩一郎、石田 剛(組織培養・免疫系分野周産期・生殖・腫瘍免疫学) 哺乳類では大脳皮質は6層構造をなし、それぞれの層で機能的、形態的に類似した細胞集団が異なる領域からの投射をやり取りしている。神経細胞およびグリア細胞は、胎生期から生後にかけて神経前駆細胞から分裂し産生される。神経前駆細胞から分化する細胞運命の決定には、細胞分裂を中止して分化を始める機構が必要であり、その中でもCyclin dependent kinase inhibitors(CKIs)の働きが注目されている。今回このCKIsのひとつであるp18遺伝子を用いて胎児マウス脳の発生に与える影響を解析した。 方法としては胎生13~17日目のマウス胎児脳にp18遺伝子を子宮内エレクトロポレーション法(EP)によって強制発現させ、その後に脳組織内での分布を観察した。 その結果、p18遺伝子発現群の方がCON群に比べて多く脳室面側に留まった。更にEPした細胞の分化後の形態を観察したところ、生後脳においてp18遺伝子発現群ではアストロサイトの形態をした細胞が増えていた。この細胞は特にE14、E15で顕著に認めたことから、この時期にニューロンの分化からアストロサイトの分化に切り替わる何らかのメカニズムが存在していると考えられた。 今回の研究によってNPCがニューロンへの分化からアストロサイトへの分化に切り替わるメカニズムにCKIsが関与している可能性が示唆された。アストロサイトはグルタミントランスポータの発現により、二次的脳損傷から神経細胞を保護しており、その発生が解明されることで低酸素性虚血性脳症の治療への応用も期待される。26大-3:嗅球から高次中枢への出力系神経回路の形態学的解析研究代表者:樋田 一徳、松野 岳志(組解剖学・形態系分野 統合形態学・神経科学) 嗅球の主要な投射ニューロンである僧帽細胞は、匂い情報を嗅皮質に伝達する過程に、糸球体で入力調節を受け、細胞体や一次・二次樹状突起で出力調節を受けている。本研究では、出力調節を形態学的に解析するために、ウイルスベクターを用いた単一ニューロン標識を行い、標識したニューロン上のシナプスの分布を定量的に調べた。まず、ウイルスベクターにより標識した僧帽細胞を電顕観察用に処理し、75-80μm厚の連続超薄切片にして、電子顕微鏡でモンタージュ撮影した。そして、細胞体や一次・二次樹状突起をNeurolucidaで再構築し、シナプスの分布を解析した。シナプスの密度は領域毎に異なっていたが、出力シナプスが非対称性シナプスで入力シナプスが対称性シナプスであること、出力シナプスと入力シナプスの数の割合が3対2であること、出力シナプスの60%、入力シナプスの80%が相反性シナプスを形成することなどの共通する特徴を認めた。また、一次樹状突起では、シナプスが細胞体から離れるほど減少する傾向を認めた。シナプス分布を光学顕微鏡で確認するため、抑制性シナプスマーカー(vesicular gamma-aminobutyric acid transporter)や興奮性シナプスマーカー(vesicular glutamate transporter1)陽性部位のシナプスの有無を確認したところ、それぞれ高い一致率を示した。同マーカーによる観察でも、興奮性シナプスと抑制性シナプスの割合など上記と一致する所見を認めた。今後は、形態と機能の関連について、詳しく検証していく。― 大学院 ―S73

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