医学会誌 第41巻 補遺号
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26基-57:酸化ストレス応答シグナルの網羅的解析による肝発癌機構の解析研究代表者:日野 啓輔(肝胆膵内科学) われわれはこれまでにHCVがミトコンドリアの品質管理であるマイトファジーを抑制することで、酸化ストレスを増幅かつ持続させることを明らかにしてきた(Am J Pathol 2014)。酸化ストレスの実行分子である活性酸素種(ROS)は不対電子をもつフリーラジカルと非ラジカルoxidantに大別される。ROSによる発癌機構はこれまでラジカルを介する酸化的DNA傷害に基づく遺伝子変異からの解析が中心であり、非ラジカルoxidantによる細胞内シグナルの障害やレドックス制御機構の破綻がどのように肝発癌と関連しているかは殆ど明らかにされていない。そこでHCVによる酸化ストレス状態における細胞内シグナルの変化を明らかにする目的で、HCV-JFH1株感染細胞を用いて、細胞内蛋白質のリン酸化状態を、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)を利用したiTRAQ®リン酸化部位同定・相対的定量解析を行った。HCV感染細胞では488種類の蛋白に質量変化を認め、そのうち80.3%がリン酸化による質量増加であった。リン酸化を受けたアミノ酸の97%がserine、3%がthreonineであり、ストレス応答性kinaseであるserine/threonine kinaseの活性亢進が示唆された。一例として細胞骨格蛋白である・-adducinのリン酸化が亢進したが、これはHCV感染細胞に抗酸化剤であるN-acetylcystein (NAC)を添加するとそのリン酸化が抑制された。すなわち、・-adducinのリン酸化はHCV自体によるものではなく、ROSによるものと考えられた。26挑-8:マイトファジーの回復によるHCV関連発癌の抑制研究代表者:原 裕一(肝胆膵内科学)【目的】われわれはC型肝炎ウイルス(HCV)による酸化ストレスの亢進、ミトコンドリア障害と肝発癌の関連を報告してきた。さらに障害を受けたミトコンドリアは選択的autophagy(mitophagy)により選択的に除去され、品質管理が行われているが、われわれはHCVコアタンパクがmitophagyのkey moleculeであるParkinと結合することでHCVがmitophagyを抑制することを明らかにした。この結果障害ミトコンドリアが排除されず酸化ストレスを増強しており、肝発癌に寄与している可能性が示唆された。今回抑制されたmitophagyを回復させることで肝発癌を抑制できるのではないかという仮説のもとmitophagy回復機構について検討した。【方法】HCVクローンであるJFH1感染Huh-7細胞を用いてmitophagy制御分子の解析を行った。さらにHCV全遺伝子を発現するトランスジェニックマウス(HCV-TgM)、HCVを感染させたヒト肝細胞キメラマウスを用いて同様の解析を行った。【結果】Deferiprone(DFP)は欧米でサラセミアの治療に用いられる鉄キレート剤であるが、PINK1/Parkinを介さずにマイトファジーを誘導することが明らかにされている(EMBO reports 2014)。DFP投与により、濃度依存性にHCV感染細胞においてもmitophagyが誘導された。Mitophagyの誘導により酸化ストレスは抑制された。鉄キレートによるmitophagy誘導の機序を探るため、ゴルジ体の2価鉄を検出する蛍光プローブFeRhoNoxTM-1とミトコンドリア内の2価鉄を検出する蛍光プローブ(Ac-MT-FluNox1)(岐阜薬科大学との共同研究)を用いて、DFP処理後のミトコンドリア内2価鉄の変化を観察したところ、HCV感染細胞では非感染細胞に比べてミトコンドリア内の2価鉄が多く、またDFPによりHCV感染細胞、非感染細胞ともにミトコンドリア内の2価鉄が減少していた。HCV-TgMではDFP投与により、肝脂肪化、酸化ストレスが抑制されていた。【結論、考察】Mitophagyの回復によりHCVの存在下でも酸化ストレスが抑制され肝脂肪化抑制されていることは肝発癌抑制において重要な知見と考えられた。S54川 崎 医 学 会 誌

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