医学会誌 第41巻 補遺号
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26基-97:eNOS-NO経路の破綻による腹膜線維化促進のメカニズムの検討研究代表者:藤本 壮八(腎臓・高血圧内科学)【背景】腹膜透析の長期継続で腹膜劣化が生じ、機能低下が惹起される。腹膜線維化は、腹膜劣化、腹膜機能低下を来す重要な要因である。その線維化進展過程では間葉系細胞増殖が重要な役割を担う。腎不全患者には内皮機能障害が随伴しているが、内皮機能障害が腹膜間葉系細胞、線維化に及ぼす影響は不明である。eNOS-NO経路の破綻が、腹膜線維化進展に及ぼす影響につき検証した。【方法】eNOS遺伝子欠損マウス (eNOSKO)、野生型C57/BL6Jマウス (WT) 及び糖尿病自然発症Akitaマウス (AKITA)を使用した。これらに腹膜剥離 (PS) による腹膜線維化モデルを作成しPS後、3、7、14、28日目に屠殺し評価した。さらにeNOSKO、AKITAに対し、eNOS-NO経路の下流の可溶性グアニル酸シクラーゼ (sGC) の刺激薬投与を行い、腹膜線維化への効果を検討した。【結果】WT-PS群の腹膜細胞増殖は1週間をピークに徐々に減少し、4週間の時点でわずかに線維化を残し治癒した。eNOSKO-PS及びAKITA-PS群の腹膜は、WT-PS群に比し腹膜肥厚の増強、αSMA陽性細胞の増殖遷延を認め線維化が増悪した。eNOSKO-PS及びAKITA-PS群へのsGC刺激薬投与は、間葉系細胞増殖及び線維化を抑制した。【結論】eNOS-NO経路の破綻は腹膜間葉系細胞増殖遷延を介し線維化を増悪させた。sGC刺激薬は、eNOS-NO経路を活性化し腹膜障害進展を抑制した。26基-96:腹膜線維化における酸化ストレス依存的Wntシグナル伝達制御機構の解明研究代表者:佐々木 環(腎臓・高血圧内科学)【目的】腹膜中皮の線維化は,腹膜機能低下の規定因子であり,中皮細胞形質変換 (EMT) は,線維化初期過程において重要な役割を果たしている。EMT及び組織線維化にはWntシグナル活性化が関与することが示されている。主として腎遠位尿細管で産生される抗老化蛋白klothoはWnt活性抑制作用を有することから,「Klotho蛋白は腹膜線維化過程において,Wntシグナル系抑制によりEMTを抑制し,線維化抑制に働き,腹膜保護作用を発揮する」との仮説を立て検証した。【方法】Klotho過剰発現マウス(Klotho-Tg)及びWnt制御下にβ-galactosidase遺伝子を発現するレポーターマウス(Wnt-LacZ)を用いた。長期留置ポートを皮下に埋設し,連日高糖濃度の透析液を注入し,腹膜線維化を惹起するモデルを作成した。線維化過程でのWntシグナル系活性化とKlotho蛋白の腹膜線維化に対する効果を検討した。【結果】注入28日後に再生腹膜中皮にWnt活性化(LacZ染色)と中皮細胞EMT(α-SMA発現増加)を認めた。さらに癒着を伴う腹膜線維化の進行及び腹膜組織におけるCTGF,fibronectin等の遺伝子発現増加を認めた。一方Klotho-Tg腹膜線維化モデルでは,腹膜組織におけるWnt活性化が抑制され,EMTの進行,線維化が改善された。【結論】腹膜線維化にはWntシグナル活性化が関与する。Klotho蛋白はWntシグナル活性化を抑制し,中皮細胞形質変換,線維化を抑制し腹膜保護作用を示す。S40川 崎 医 学 会 誌

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