医学会誌 第41巻 補遺号
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26基-10:酸素による細胞から臓器レベルに至る心機能調節機構の解析-タイチンに着目して-研究代表者:橋本 謙(生理学1) 周産期の心筋では一部のタンパクで胎児型から新生児・成体型へのアイソフォーム転換が起こることが知られている。サルコメアに存在する巨大弾性タンパクであるタイチン(titin)もその一つであり、筋の受動的伸展性、即ち心臓の伸び易さを規定する分子である。哺乳類心筋では、胎児期には分子サイズが長く伸展性の高いN2BA型タイチン(3.7 MDa)が発現しているが、出生後数日で相対的に短く伸展性の低いN2B型タイチン(3.0MDa)に転換され、それに応じて心臓の拡張期伸展能も低下する。両アイソフォームは共に単一のタイチン遺伝子座から選択的スプライシングにより生成される。最近、タイチンの主要なスプライス調節因子としてRbm20が同定されたが、周産期のタイチン転換への関与は不明である。我々は、哺乳類での出生時の肺呼吸開始による急激な体内酸素分圧上昇がタイチン転換に関与しているという仮説を着想した。最初に、3~4MDaという巨大タイチン分子をSDS-agaroseをベースにした電気泳動で検出できる系を確立し、出生前後のマウス心筋で上記のタイチン転換が起こっていることを確認した。次に、マウス胎児心筋細胞に大気レベルの酸素を曝露することにより同様のタイチン転換が起こることを見出した。このことは、出生時の肺呼吸開始による酸素分圧上昇がタイチン転換の引き金になっていることを示唆しており、現在、Rbm20活性との関連を検討中である。26基-71:NADH・FAD蛍光による再生医療用培養心筋の代謝機能と収縮動態評価法の開発研究代表者:小笠原 康夫(医用工学) 再生・細胞医療による心臓機能の再生は、心臓本来の機能回復を基本とするため、根本的な治療法としての可能性を持っている。そのため、治療手法としての確立が望まれているが、迅速な治療のために短期間での細胞培養と効率的培養が要求され、併わせて培養細胞の機能的な品質保証が必須事項である。培養細胞の評価法として、培養細胞分化評価、目的細胞培養の選択性評価は基本的な評価項目であるが、さらに細胞機能の評価が必修である。特に心筋細胞においては、その代謝機能評価とともに収縮機能の動的評価が必要になってくる。本研究は、再生・細胞医療を支援する培養心筋細胞の代謝機能と収縮機能動態の統合的評価システムの開発を目標とする。この際、細胞機能評価においては、細胞に対する非侵襲的かつ非破壊的な機能評価が必修条件である。まず、代謝機能評価には、心筋細胞におけるNADHとFADの自家蛍光観察による蛍光画像解析を行う。さらに、同じ培養細胞に対して収縮動態を示す動画像を撮像して培養細胞群の収縮量の解析を画像処理により実現する。本年度は細胞収縮性の評価のための画像解析プログラムの作成を行った。特に培養細胞群の中から収縮動作を行っている箇所の検出を実現した。S31

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