医学会誌 第40巻 補遺号
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25大-5:高次脳中枢による嗅覚系神経回路の調節経路:セロトニンニューロン研究代表者:樋田 一徳、鈴木 良典(解剖学) 匂い情報を処理し、高次中枢へ伝える嗅球内には多種多様なニューロンが存在し、神経回路を形成している。この嗅覚神経回路は高次中枢からの遠心性入力により調整を受けていることが知られているが、多様な神経活性を示すセロトニンを含有するニューロンは未だ不明な点が多い。本研究は、セロトニンニューロンの起始核から嗅球までの全体像、脳各領域への分枝、さらに嗅球内でのシナプスの形態を明らかにすることを目的とする。 具体的方法として、マウス脳背側縫線核にpal GFP Sindbis virusをインジェクションし単一ニューロンを標識する。灌流固定後、全脳の連続切片を作製し、抗GFP抗体を用いて感染標識したニューロンを可視化する。多重蛍光免疫染色を行い、セロトニンニューロンであることを確認した標識ニューロンの全体像を、縫線核から嗅球に至るまでデジタルトレースを行う。更に、嗅球の冠状断連続切片を抗セロトニン抗体による包埋前免疫染色を行い、透過型デジタル電子顕微鏡でシナプスを観察する。また電子線トモグラフィーによるシナプスの立体解析を行う。 解析の結果、セロトニンニューロンは、脳の他部位へ分枝を出しながら軸索を嗅球内に投射し、嗅球内で複数のニューロンと非対称性シナプスを形成していた。シナプス結合の構造には多様性が見られた。また、セロトニンニューロンは、VGLUT3と共存してシナプスを形成していた。25大-8:神経上皮組織の弾性率変動に基づいた大脳皮質構築の制御機構研究代表者:樋田 一徳、岩下 美里(解剖学) 大脳皮質を構成する多様な神経細胞は、胎生期脳組織で神経前駆細胞が増殖・分化することで産生される。この過程は内因性因子(遺伝子発現プログラム)および外因性因子(細胞外環境の変遷)によって制御されている。 外因性因子のうち、組織構造固有の物理的特性(弾性率変動)は、増殖・分化などの細胞運命を制御すると考えられている。胎生期脳組織では細胞構築の違いに由来する増殖細胞層・線維層・神経細胞層が明瞭に観察される。そこで、我々は、原子間力顕微鏡による弾性率測定と免疫組織化学的手法を組み合わせ、胎生期脳組織における弾性率変動の体系的な評価を行った。 その結果、(1)増殖細胞層における発生の進行に伴う弾性率上昇(2)神経発生中期線維層における弾性率のピーク(3)神経細胞層における、神経発生初期から中期での弾性率上昇と後期での下降といった、弾性率の時空間的変動を見出した。これらの結果をもとに、生体弾性率を反映させた新規培養系を確立し、弾性率の違いが神経前駆細胞の運命決定に影響しうることを示した。 弾性率変動は力学知覚遺伝子により細胞に認識・伝達される。そこで、これらの遺伝子に関して、胎生期脳組織における免疫組織学的解析を行ったところ、特徴的な発現パターンを得た。現在、ノックダウンによる遺伝子機能解析を行い、大脳皮質形成における弾性率変動を介した細胞運命決定機構の分子メカニズムの解明を目指している。― 大学院/生殖/医療 ―S74川 崎 医 学 会 誌

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