医学会誌 第40巻 補遺号
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25基-65: 珪酸曝露されたマクロファージおよび樹状細胞が免疫恒常性、特にT細胞の極性化に及ぼす影響の解析研究代表者:李 順姫(衛生学) 珪肺症患者では慢性の呼吸不全のみならず、多発性硬化症、リウマチ、強皮症などの自己免疫疾患を高頻度で合併する。珪酸はアジュバント効果が高いことで知られており、従来、珪肺症患者における自己免疫疾患の併発もこのアジュバント効果によるものであると考えられてきた。しかし、我々は取り込まれた珪酸は長期にわたり体内に貯留し、この貯留珪酸が免疫細胞の極性化(polarization)に影響を与えることで、T細胞の制動システムを狂わし自己免疫の暴走を引き起こす一因になると考えている。このシステムの中で、異物認識の最前線にいるのがマクロファージ、樹状細胞であり、これらの細胞がT細胞サブセットへの極性化を規定している。このような背景から本研究では、長期珪酸曝露ヒト単球由来THP-1細胞をPMAで分化させ、TLR4 のリガンドであるLPSで刺激することにより誘導される遺伝子発現を珪酸曝露細胞と非曝露細胞で比較検討した。その結果、活性化の指標となるHLA-DRの遺伝子発現亢進が見られた。これは、Th細胞の活性化に珪酸曝露が確かに傾向させることを示唆しているものと考えられるが、その他の主な活性化マーカーや、サイトカイン、ケモカイン等の発現には著しい差は見られなかった。今後、この長期曝露株を用いて、様々なTLRリガンド刺激による変化を解析することで、珪酸曝露された単球の自己免疫疾患発症への関与を明らかにする。25基-60:次亜塩素酸ナトリウムによる抗黄色ブドウ球菌作用メカニズムの解析研究代表者:山田 作夫(微生物学) 次亜塩素酸ナトリウム(Na)は消毒薬として頻用されているが、抗菌作用メカニズムの詳細は未だ不明である。そのため本研究ではその作用メカニズムについて超微形態的さらには生化学的に追求した。 次亜塩素酸Na処理黄色ブドウ球菌209P株を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、0.05%で5分ならびに15分処理した菌体において、表面全体がイレギュラー化し、さらに菌体表面の一部が陥入する像が認められた。また、0.1%5分ならびに15分処理菌では、表面のイレギュラー化が著しいことが認められた。一方、0.05%5分ならびに15分処理菌の透過型電子顕微鏡観察では、とくに細胞質内が異常をきたす像が観察された。さらに、0.1%で5分あるいは15分処理すると、細胞質内の異常が顕著となり、凝縮という特徴ある超微形態変化を観察することができた。このように次亜塩素酸Na処理菌では、陥入を伴う菌体全表面の異常に加え、細胞質内での凝縮が顕著に観察できたことから、次亜塩素酸Naは、特に細胞質内に異常を惹起することが示唆された。そのため、次亜塩素酸Naが染色体DNAへ影響を及ぼすことが考えられることから、次亜塩素酸Na処理菌における染色体DNAをアガロースゲル電気泳動法により検出したところ、処理濃度が高濃度になるに伴って高分子DNAが消失し、次亜塩素酸Naが黄色ブドウ球菌の染色体DNAを分解することが強く示唆された。S60川 崎 医 学 会 誌

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