医学会誌 第40巻 補遺号
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25基-21:血行力学負荷による心筋細胞リモデリングにおけるNa+/Ca2+交換体の役割の解明研究代表者:氏原 嘉洋(生理学1) 心筋細胞は生後速やかに分裂能を失い、高血圧のような血行力学負荷に対して、個々の細胞が自身の構造や形態を再構築(リモデリング)することによって心機能を最適化するが、過度の負荷がかかると適応範囲を逸脱し心不全に至る。Na+/Ca2+交換体(NCX1)は、心筋細胞のT管膜に特異的に発現し、生理条件下では、心臓の拍動ごとに流入してくるCa2+を細胞外へ汲み出す実質上唯一のCa2+排出系として働いている。昨年度、過度の血行力学負荷をマウスの左心室に与え、心不全の進行過程における心筋細胞の構造、Ca2+動態、NCX1の発現量および活性を計測したところ、NCX1活性の低下した後にT管膜構造が崩壊することを見出した。T管膜は、形質膜の電位変化を瞬時に筋小胞体Ca2+伝達するのに必須であることから、その崩壊は心筋細胞の収縮率の低下を引き起こす。薬物投与により心筋細胞特異的にNCX1を高発現可能な遺伝子改変マウスを用いて、T管膜構造が崩壊する前から心筋細胞のT管膜上にNCX1を高発現させたところ、過度の血行力学負荷が作用しているのにもかかわらず、NCX1活性は長期にわたって維持されており、T管膜構造の崩壊を回避することができた。驚くべきことに、細胞レベルの収縮率も維持されていた。以上のことから、T管膜のNCX1によるT管膜近傍のCa2+制御は、心筋細胞の機能維持に重要である可能性が示唆された。25基-101:左室収縮能の低下が生理的範囲内にとどまる収縮不全症例の臨床背景と予後研究代表者:玉田 智子(循環器内科学)【背景】左室駆出率(LVEF)の保たれた心不全の予後は収縮不全と同程度に不良であることが知られている。一方、LVEFが低下しているにもかかわらず左室弛緩能が加齢に伴う生理的範囲内の低下にとどまる例がある。【目的】左室収縮能低下例において左室弛緩能が生理的範囲内の低下にとどまる例の臨床背景とその予後について検討すること。【対象と方法】洞調律の左室収縮能低下例(LVEF<50%)88例を対象とした。局所壁運動異常を有する症例と開心術後の症例は除外した。左室弛緩能の指標として僧帽弁輪部速度の拡張早期成分e’を用いた。e’が健常例の年齢別平均値±2SDの範囲内であった群(N群)とそれより低下していた群(L群)に分類し、その臨床背景と予後(心血管イベント:全死亡、心筋梗塞、狭心症、心不全悪化、脳卒中)を比較した。【結果】N群は71例(80.7%)、L群は17例(19.3%)であった。N群はL群よりも高齢(N群:68.1±13.1歳vs. L群:56.1±15.2歳, p=0.001)であったがその他の臨床背景には差はなかった。平均741日の追跡期間でN群ではL群と比較して心血管イベント回避生存率が高かった(Log-rank, p=0.046)。【結語】左室収縮能低下例において左室弛緩能が生理的範囲内の低下にとどまる例は高齢であるにもかかわらずその予後は比較的良好であった。S36川 崎 医 学 会 誌

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