医学会誌 第40巻 補遺号
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25基-96:新しい臨床基準による腎機能障害(急性腎障害)と脳血管障害との関連の解明研究代表者:佐藤 貴洋(脳卒中医学) 本研究の目的は、急性期のラクナ梗塞患者においてcerebral microbleeds (CMB)が腎障害と関連するかどうかを明らかにすることである。 我々は2007年4月から2013年3月末までに当院に入院した発症24時間以内の初発ラクナ梗塞の患者を対象とし、入院時のMRI画像所見(CMB・白質病変・無症候性ラクナ梗塞)と入院時eGFRとの関連を評価した。対象患者をCMBの有無によって2区分し、ロジスティック回帰分析を用いてCMBの独立した関連因子を検討した。 合計152人の対象患者(男性66%、平均69歳)のうち、45人にCMBを認めた。CMB有群では無群と比較して無症候性ラクナ梗塞、大脳白質病変、高血圧症の有病率が高く、入院時eGFR が低値であった。CMBの有病率はeGFR高値群14%、中等度群35%、低値群40%とeGFRが低くなるほど高頻度であった。多変量ロジスティック回帰分析では無症候性ラクナ梗塞・高血圧症・大脳白質病変・入院時eGFR値・入院時NIHSSスコア・糖尿病がCMBの独立した関連因子であった。本研究の結果から、急性期ラクナ梗塞患者においてCMBは腎障害と独立して関連していたことが判明した。今後も腎機能と脳血管障害の関連を調べていきたい。25基-13:出生時の肺呼吸開始による酸素分圧上昇が心筋細胞の分裂停止に果たす役割の検討研究代表者:橋本 謙(生理学1) 心筋細胞は胎生期には活発に分裂するが、哺乳類では出生後1-2週間で細胞周期から完全に離脱し、分裂能を失う。この現象の制御機構は不明である。一方、両生類や魚類の一部では成体心臓においても分裂・再生能が残されており、進化学的な観点からも心筋細胞の分裂制御機構には謎が多い。哺乳類のような陸生胎生動物では出生時に、1) 肺呼吸開始による酸素分圧の上昇(PaO2:20→100mmHg)、2) 血行動態の変化(臍帯動静脈、卵円孔・動脈管の閉鎖)、3) 母体血途絶による一時的な飢餓、のような劇的な変化が生ずるが、我々は1)が心筋細胞分裂停止のトリガーではないかとの仮説を着想した。胎児の低酸素環境を模擬した条件(3% O2)にて妊娠14-18日のマウスから胎児心筋細胞を分離し、低酸素(3%)vs通常酸素(21%)で培養したところ、後者では増殖が抑制され、増殖マーカー(Ki67)の発現比率も低下していた。このことは、出生時の大気酸素への曝露が心筋細胞の分裂を抑制することを示唆している。次に、このような変化を制御する因子を特定する為、(a)胎児心筋vs新生児心筋、及び、(b)培養胎児心筋:3% vs 21% O2、の2種類の条件でマイクロアレイ解析を行い、酸素暴露により出生時と類似した遺伝子変化(細胞周期関連pathwayの劇的な低下)が起こることを確認した。更に2種のアレイで共通の発現プロファイルを示す56遺伝子を抽出し、各々のノックダウン実験により最も強い表現型を示す2遺伝子を特定した。現在、これら2つの遺伝子と酸素センシング及び細胞周期・分裂系との関連を探索中である。将来的には、酸素による細胞分裂制御機構が進化学的に保存された普遍的なシステムであることを提唱したいと考えている。S35

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