医学会誌 第40巻 補遺号
29/92

25基-55:表皮のホメオスタシス維持機構と有棘細胞癌の発生におけるYAP/MCL1の機能解析研究代表者:牧野 英一(皮膚科学)【背景】MCL1は抗アポトーシス作用を有するBCL-2ファミリーに属し、BCL-2以外のメンバーとしてBCL-xL、BCL2-A1、BCL-wが挙げられる。Bcl-2、Bcl2-a1a、Bcl-wノックアウトマウスでは皮膚の異常は報告されておらず、抗アポトーシス作用を有するBCL-2ファミリーの中ではMCL1とBCL-x Lの2つが表皮細胞の生存に強く関わっているものと想定されている。【目的】最近、Bcl-xLコンディショナルノックアウト(cKO)マウスの皮膚において紫外線や薬剤による発癌を抑制する効果があると報告されたが、表皮細胞におけるMCL1の機能の詳細は未だ不明のままである。表皮細胞の生存・分化におけるMCL1の機能を解析することが本研究の目的である。【方法】組織特異的プロモーターとして表皮細胞に特異的に発現しているKeratin-5とKeratin-14とを用いてCre蛋白を誘導し、マウス皮膚の基底細胞におけるMcl1を特異的に欠失させ、その変化を観察し、表皮細胞の生存・分化に果たすMCL1の直接的な働きを明らかにする。【結果・考察】免疫染色法にてMCL1は有棘層から顆粒層といった分化した層に強く発現していることを確認した。本研究において作製したMcl-1 cKOマウスの皮膚では著明な角化亢進と表皮肥厚が観察された。皮膚以外にKeratin-5の発現している食道や胃でも角層の著明な肥厚が認められ、重層扁平上皮における分化にMCL1が深く関与していることが想定された。本研究にて抗アポトーシス作用をもつタンパク質MCL1と表皮細胞の増殖・分化との関連について重要な所見が得られる可能性が期待される。25基-43:脳形成時に神経細胞及びグリア細胞を産生する分化メカニズムの解明研究代表者:小曽戸 陽一(解剖学) アストロサイトとニューロンは、成熟した細胞ではその役割が大きく異なるが、発生の段階では共にその起源を神経前駆細胞に持つ。このことは、アストロサイトとニューロンには発生上の「分岐点」が存在することを意味する。これまでの研究から、神経前駆細胞の増殖停止前の細胞状態の違いが分岐の出発点であることが知られている。しかしながら、増殖停止後アストロサイトが成熟する過程で固有の形質を獲得していく機構、またアストロサイト/ニューロンの細胞運命の中間状態の存在については、これまでほとんど研究が進められていない。 我々は、細胞周期をG1期で停止させるサイクリンキナーゼ阻害(CDKI)遺伝子を本来ニューロンが産生する時期の大脳皮質の神経前駆細胞に発現させることで、細胞形態・移動様式においてアストロサイト・ニューロンの両者の形態的性質を兼ね備える「中間遷移状態」の細胞種を誘導できることを発見した。最終的にこの細胞は、CDKIの導入時期依存的にアストロサイトおよびニューロンに分化することが見出された(石田ら、未発表)。この知見に基づき、今後は1)遷移状態の細胞形質が変換していく際の遺伝子変動を精査する、2)胎生期脳への新規細胞移植法(Nagashima et al, 2014)を用いて、多能性幹細胞由来のアストロサイトを効率的に脳組織に移植することを目指す。S25

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です