川崎医学会誌39-2
48/86

24基-100: 表皮細胞のホメオスタシス維持機構とその破綻-有棘細胞癌の病態解明と新治療の開発を目指して-研究代表者:牧野 英一(皮膚科学)【背景】MCL1は抗アポトーシス作用を有するBCL-2ファミリーに属し、BCL-2以外のメンバーとしてBCL-xL、BCL2-A1、BCL-wが挙げられる。Bcl-2、Bcl2-a1a、Bcl-wノックアウトマウスでは皮膚の異常は報告されておらず、抗アポトーシス作用を有するBCL-2ファミリーの中ではMCL1とBCL-xLの2つが表皮細胞の生存に強く関わっているものと想定されている。【目的】最近、bcl-xLコンディショナルノックアウト(cKO)マウスの皮膚において紫外線や薬剤による発癌を抑制する効果があると報告されたが、表皮細胞におけるMCL1の機能の詳細は未だ不明のままである。表皮細胞の生存・分化におけるMCL1の機能を解析することが本研究の目的である。【方法】 組織特異的プロモーターとして表皮細胞に特異的に発現している Keratin-5とKeratin-14とを用いてCre蛋白を誘導し、マウス皮膚の基底細胞におけるMcl1を特異的に欠失させ、その変化を観察し、表皮細胞の生存・分化に果たすMCL1の直接的な働きを明らかにする。【結果・考察】免疫染色法にてMCL1は有棘層から顆粒層といった分化した層に強く発現していることを確認した。本研究において作製したMcl-1 cKOマウスの皮膚では著明な角化亢進が観察された。皮膚以外にKeratin-5の発現している食道や胃でも角層の著明な肥厚が認められ、重層扁平上皮における分化にMCL1が深く関与していることが想定された。本研究にて抗アポトーシス作用をもつタンパク質MCL1と細胞分化との関連について重要な所見が得られる可能性が期待される。24基-73: Sox2遺伝子を標的とした非小細胞肺癌および食道癌に対する新規治療法開発のための基礎的検討研究代表者:深澤 拓也(総合外科学) Sox2はSox遺伝子ファミリーに属し、DNA結合能を持つHMGドメインと転写活性化ドメインから成る転写因子である。Dana-Farber Cancer InstituteのDr. Meyerson 教授らの研究チームは、肺扁平上皮癌と食道癌の組織で、Sox2遺伝子が過剰に活性化していることを報告し、Sox2が肺癌および食道癌における系統維持型癌遺伝子であることを報告した(Bass AJ, Meyerson M et al. Nat Genet. 41:1238-42. 2009)。6種類の肺扁平上皮癌細胞株を用いた、Immunoblot法による発現解析において、Sox2は3種細胞株に強発現を、また1種類に弱発現が認められた。Sox2に対するsiRNAを用いた検討において、Sox2siRNAはSox2を発現する肺扁平上皮癌株に対して、その発現を減弱させるとともに、細胞増殖の阻害とcolony形成の抑制を誘導した。Flow cytometry法を用いた細胞周期解析またAnnexinⅤを用いた細胞死解析において、G1 arrestまたは早期apoptosisの誘導が観察された。一方で、Sox2の発現の無い肺扁平上皮癌株、また線維芽細胞株にお細胞増殖阻害効果は認められなかった。以上より、Sox2の発現制御は一部の肺扁平上皮癌に対し抗腫瘍性を誘導することが示された。― 癌 ―S44川 崎 医 学 会 誌

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です