川崎医学会誌39-2
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24基-13:血管内皮細胞におけるメカノセンサー分子TRPV2の役割と動脈硬化発症との関連研究代表者:橋本 謙(生理学1) 動脈硬化発症には単球の内皮下浸潤が重要であると考えられている。浸潤現象は、内皮細胞間隙の接着分子の種類や発現量などの“化学的”な観点から解釈されことが多いが、実際の浸潤では両細胞の接触部における微細な膜の変形・伸展といった“物理的・機械的”な解釈が必須であり、機械刺激を感知し、適切な細胞反応を導く制御系の存在が想定される。我々は、既報の機械刺激感受性分子(メカノセンサー)のうち、Ca2+の流入経路としても機能するTRPV2に着目し、内皮細胞における役割を検討してきた。前年度の研究において、TRPV2のノックダウン(以下KD)により、細胞の動きが阻害され、反対に、活発に動く細胞ではTRPV2発現が上昇していることから、TRPV2は細胞が動く為に必要な分子であることが示唆された。本年度は、TRPV2及び流入するCa2+の作用機序を明らかにする為、1)細胞骨格系、2)細胞-基質接着系、及び3) 細胞周期系に着目して解析を行った。1)では、TRPV2-KDによりアクチン骨格の重合核となるArp2のリン酸化が抑制されており、遊走細胞での仮足形成に必要なアクチン重合が阻害されていることが考えられた。2)では、TRPV2-KDにより焦点接着斑に存在するtalin、vinculinが強く染色されており、基質との接着性増加による細胞運動の阻害という機序が示唆された。また、3)では、TRPV2-KDにより増殖能の抑制、及び細胞サイズの増加が認められた。このことは、TRPV2が何らかの機序で細胞増殖を促しており、KDによる細胞周期の阻害が細胞分裂を抑制し、結果として細胞肥大が認められた可能性が考えられた。現在、TRPV2の過剰発現系を構築中であり、更なる詳細機序の検討、また、単球浸潤や動脈硬化発症との関連性について検討していく予定である。24基-96: 心血管疾患発症に対する予測因子としての機能的動脈硬化検査法の有用性 -慢性腎臓病患者におけるコホート研究-研究代表者:駒井 則夫(腎臓・高血圧内科学)【背景】慢性腎臓病(CKD)は心血管系疾患(CVD)発症の独立した危険因子である。実際、CKDの原因疾患において、糖尿病性腎症や腎硬化症が原因疾患として増加しており、CKDを血管障害-動脈硬化性疾患として検討する必要がある。【目的】心臓足首係数(CAVI)を用いて、CKDの病態形成における動脈硬化関与、および予後に関して検討した。【対象及び方法】高血圧を合併するCKD患者(n=232)を対象にCAVI、尿蛋白・微量アルブミン尿、推定糸球体濾過量(eGFR)を測定した。また、虚血性心疾患、脳梗塞発症に関して、予後調査を行った。【結果】CAVIとeGFRの単回帰分析は有意な負の相関を認めた(r=0.232,p<0.01)。腎機能正常患者においてアルブミン尿を認めない患者群、微量アルブミン群、顕性蛋白尿群にわけCAVIを評価したところ、微量アルブミン尿群がアルブミン尿を認めない群に対して有意に高値(p<0.05)を示した。CAVIで2分位しKaplan-Meier曲線をlog rank検定し比較したところ、虚血性心疾患の発症はCAVI高値群で有意に高値であった(p<0.05)。また、脳梗塞の発症はCAVI高値群で有意に高値を示した(p<0.05)。【考察】CAVIとeGFRとの間に有意な相関があることから、CKDの病態形成において動脈硬化自体が、重要な機序の一つであることが示唆された。また、CAVIはCVD発症の予測因子として有用であることが示唆された。S33

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